物理教育 第51巻 第1号(2003) 目 次

 

研究報告

蛍光を発する食塩の合成…斯迪克 艾尓肯,山下 信彦…1

食塩水にPbMnを添加した後,蒸発・乾固させるという簡便な方法によって,蛍光性

の食塩を合成することに成功した。著者達のこれまでの研究によると,紫外線の下で蛍光

を発するカリフォルニア産岩塩は,不純物としてPbMnを含んでおり,Pbによって吸収

された紫外線エネルギーがMnに伝達され,その後,Mn内の電子遷移により橙赤色の蛍光

を発することが分かっている。蛍光性食塩の合成は,この天然岩塩にヒントを得たもので

ある。この蒸発・乾固法は,電気炉やマッフルなどを使って合成する溶融法に比べて経済

的にも時間的にも極めて簡便な方法である。学校教育における授業実践を想定し,明るい

蛍光を発する食塩微結晶の合成方法を提示する。

 

空気温度計の試作…小池 守,勝又 真弓,高津戸 秀,小林 辰至,西山 保子…6

教材化を目的として,ガラス製サンプル瓶(5ml)とガラス管(内径  2mm)を用いて,

空気の膨張収縮を利用した温度計(以下,空気温度計と呼ぶ)を作製した。サンプル瓶の

内部と外部の温度差及びサンプル瓶中の水量を検討した結果,以下の事柄が明らかとなっ

た。@サンプル瓶内部と外部の温度差を考え,温度は測定開始後120秒後に読みとること。

A温度変化に伴い色水がガラス管の最高位置を示す高さ(以下,液柱の高さと呼ぶ)は,

ガラス瓶内の空気量が多いほど変化量は大きいこと。B温度と液柱の高さの関係は直線と

はならず,示度も等間隔とはならないこと。そこで,温度計の温度を感知する部分(以下,

温度感知部と呼ぶ)と色水がガラス管を上下し温度を示す部分(以下,液柱部と呼ぶ)を

分け,温度感知部のみを加温し,色水を加温しない構造にしたところ,温度と液柱の高さ

の関係は直線となり,温度計の示度も等間隔となり,教材化に当たっての問題点が解消さ

れた。 空気温度計は,身近な素材を用いたものづくり体験を通して,探究の過程を重視した問

題解決学習に利用できるものと考えられる。

 

エアロゾルによる地球温暖化・冷却化デモンストレーション実験器…川村 康文…10

温室効果ガスによる地球の温暖化の議論のみならず,エアロゾル粒子による地球の温暖

化・冷却化についても議論されている。エアロゾル粒子による地球の温暖化・冷却化をデ

モンストレーションする実験器を,環境教育の教材として開発したので報告する。

 

50周年記念特集

学習指導要領の変遷に伴う学会の動向…広井 禎,鈴木 亨15

日本物理教育学会大阪支部の記録…日本物理教育学会近畿支部…18

1957(S.32)年以降のスプートニク・ショックは,日本の理数教育特に物理教育の在り

方に大きな影響を与えたことは衆知の事実である。国民の科学的水準の高揚に向けて活動

していた日本物理教育学会も研究・実践を強化したはずである。まさにこの時期,大阪支

部は,本学会の活動をより身近な研究・研鑽の場とするために発足した。その後,自然認

識の意義や論理的思考の育成を図りつつ,活動範囲を大阪から近畿へと拡大させ(近畿支

部の発足),事業もまた質・量ともに充実・発展を遂げている。これは,大阪支部発足から

近畿支部への発展の経緯を,断片的に存在する記録と 記憶をもとにその概観をまとめたも

のである。

日本物理教育学会近畿支部の10年…高橋 憲明…22

近畿支部発足の頃−その準備と経過−…菅野 礼司…27

近畿支部年報(近畿の物理教育)発刊の経緯―支部報の意義―…鬼塚 史朗…28

 「物理教育を考える会」について…鈴木 健一…30

 

学会報告

日本物理学会2002年秋季大会シンポジウム 物理教育における実験の歴史と現状

   …種村 雅子…31

2002年9月6〜9日に中部大学で開催された日本物理学会2002年秋季大会において,9

7日に物理教育・物理学史分科会のシンポジウム「物理教育における実験の歴史と現状」

が行われた。講演者は永平幸雄氏(大阪経法大),今江新成氏(元石川県立高校),川上晃

氏(名張桔梗丘高校),江沢洋氏(学習院大理)であった。座長は前半が種村雅子(大阪教

育大学),後半を岡本正志氏(京都教育大学)が務めた。

 

京都大学所蔵物理実験機器の保存とその物理教育的意義…永平 幸雄…40

 

2002年度日本物理教育学会年会報告−原著講演−43

2002年度日本物理教育学会年次大会が2002年8月10日,11日の両日にわたって,東京

学芸大学を会場として開催された。今回は本会創立50周年記念大会として,「これからの

教育と学会の役割」というテーマで,鐘淵科学工業(株)相談役 舘 糾氏と朝日新聞論

説委員 高橋真理子氏のお二人に特別講演をお願いした。また,例年の通り大塚賞受賞式

と受賞者による記念講演が行われた。本年度の受賞者は,宝多卓男氏と綿引隆文氏であっ

た。原著講演は20件で,3会場に分かれて行われた。その他に特別セッションとして,「大

学入試と新教育課程」と題して,入試検討委員会が意見提示を行い討論が行われた。ポス

ターセッションは,霜田光一会長をはじめ,8件のブースが開かれた。以下に原著講演の

講演者にアブストラクトを提示していただいたものをそのまま掲載した。ただ長文のもの

は原文の内容を生かしながら編集委員会で圧縮させていただいた。

 

慶  事

 笠耐先生のICPEメダル受賞…兵頭 俊夫…47

 

Vol.50分野別総目次49

Information53

 

会 告

 日本物理教育学会公式ホームページの充実について/日本物理教育学会定款/物理教育投稿規定/

 2002年度理事・監事・委員会委員氏名表