物理教育 第51巻 第3号(2003)

目次

 

追悼

吉本 市先生を偲んで…藤井  清…173

 

研究報告

はねかえり係数についての再検討…本弓 康之・林  正博・富永  昭…174

はねかえり係数は,物性定数としての物理的な意味を持たず,実際の現象において衝突

前の相対速度に明らかに依存する。そこで,はねかえり係数の導入の背景や衝突の問題に

ついての実験と理論に関する再検討を行い,エネルギー概念も含めた物理教育でのはねか

えり係数の取り扱いについて考える。

 

文科系の生徒を対象とした物理授業デザインとそこでの学び…小谷 卓也…178

本研究では,これまであまり議論されてこなかった文科系の生徒を対象とした物理授業

の一つのモデルとして,生徒の興味関心を重視した体験型学習主体の「物理TA」授業モ

デルを提案した。しかし体験型学習は,「学び」というよりは「遊び」に終始しているので

はないかとの指摘がある。そこで自由記述型の質問紙調査を実施し,生徒が,本授業モデ

ルにおいて設定した4つの体験型の学習活動をどう捉えたのかを,「遊び」と「学び」の観

点から探った。そしてこれらの結果から,「遊び」的な学習活動が「学び」へと転換する可

能性について考察を展開した。

 

水滴発電器のメカニズム…齋藤 嘉夫・西尾 謙三・吉本 則之・墻内 千尋…187

水滴発電器のメカニズムを理論的に明らかにした。水滴発電器を開発し,その理論を実

証した。誘導電極の上にノズルがある場合の発電電圧は9kVを越えた。水滴浮遊の原因は

誘導電極の電場による引力であることを実証した。それを避けるためにノズルを誘導電極の下に配

置し,発電電圧を16kVまで上昇させることができた。水滴発電器の発電開始の原因が空気

中のイオンであることが議論された。

 

光の屈折の原因を探るシャーレレンズの試み

…小池  守・勝又 真弓・小野 珠乙・小林 辰至・高津戸 秀・西山 保子…193

シャーレを用いた水レンズを使い,光の屈折原因を探る実験教材を開発した。実験によ

り,光の屈折原因は,水溶液では濃度と関係することを,実験を通して児童生徒に説明す

ることができた。学習を終えた感想から,児童生徒は光の屈折原因を,物質の溶解状態を

基に考察していることが明らかとなった。また,体験を通した学習は,学習意欲だけでな

く科学的な考え方を育てることも明らかとなった。

 

 『アドバンシング物理研究会』の高大連携

…谷口 和成・笠  潤平・山崎 敏昭・岩間  徹・小川 雅史・宮永 健史・村田 隆紀…198

イギリスの新しいAレベル物理コース『アドバンシング物理』を研究する「アドバンシ

ング物理研究会(京都・和歌山)」は,教育養成学部の物理教員と高校物理教員が共同して

カリキュラム開発,教材研究,自己研修を行う新しい形の高大連携であり,これからの連

携のあり方の一つの可能性を示唆している。

 

 『アドバンシング物理』による電流回路学習の新しい視点

…山崎 敏昭・岩間  徹・笠  潤平・小川 雅史・谷口 和成・宮永 健史・村田 隆紀…202

イギリスの新しいAレベル物理コース「アドバンシング物理」を日本の高校物理に活用

する可能性を検討するために,高校生,大学生を対象とした公開講座を行った。その内容

としてASコース第2章「センシング」を取り上げ,「電位分割」の考え方を軸とした実験

を中心に据えた講座を組んだ。探求学習での高校生の取り組みを中心にその分析,検討を

行う。

 

私の工夫・私の実践

ドップラー効果と波動方程式の共変性…山田 盛夫…209

先に波の式からドップラー効果の式を導く方法を発表した。本稿では座標変換(音波

についてのガリレイ変換,光波についてのローレンツ変換)をもっと積極的に波の式に適

用してドップラー効果の式を導き,物理的意味づけを明確にするともに,これらの変換に

対する波動方程式の共変性を明らかにする。

 

夏に雪の結晶を見る授業…山田  功…212

 

連載

ノーベル賞受賞者たち(5)ブレーンベルゲンとショーロウ…霜田 光一…215

1981年度のノーベル物理学賞はレーザー分光学への貢献に対して米国のブレーンベル

ゲンとショーロウに,そして高分解能電子分光学への貢献に対してスエーデンのジークバ

ーンに授与された。今では,ほとんどすべての科学技術に多かれ少なかれレーザーが利用

されているが,レーザーの発明によって最初に大変革がもたらされたのは光学と分光学で

あった。非線形分光学の発展に大きく貢献した2名の人柄と研究を紹介する。

 

談話室

昔の思い出…玉木 英彦…221

半減期公式の導出について…鈴木  亨…222

 

委員会報告

「第12回今春の物理入試問題についての懇談会」(東京)報告

   −大学入試に関連した大学および高校スタッフの動向−…入試検討委員会…223

今年度の「第12回今春の物理入試問題についての懇談会」(通称「入試懇談会」)におい

ても,大変活発で有意義なやりとりができた。昨今の大学関係者の中等教育に対する危機

感も高まっており,その危機感が,高校−大学間を直接的に結ぶ「入試」への取り組みや

意識に反映され,具体的な入試の内容に止まらない,むしろ,その制度や在り方に及ぶ広

範な内容における議論や情報交換に対する要求が高まっているようである。特に,今春ス

タートした高校における「新課程」を学んだ生徒達が受験する2006年入試に対する危惧の

念は強く感じられ,この懇談会における話題も,新課程「物理U」の選択大項目の扱い等,

新課程をめぐる種種の課題についての情報交換に発展した。

 

学会記事

2006年度以降の大学入試における「物理」の出題に関する要望…227

 

Information …229