物理教育 第51巻4号 (2004)

 

 

研究報告

 

Kundtの実験の物理現象…本弓 康之・林  正博・富永  昭…245

 音速を求める「Kundtの実験」は,気柱共鳴管の中においた粒子が周期的に集まることを利用している。しかし,この周期的な粒子の集まりは,粒子によってその様子が異なる。そこで,「Kundtの実験」に関連した実験事実を明らかにし,物理教育での「Kundtの実験」に関する取り扱いについて考える。

 

スペースコロニー内の物体の運動…吉村 高男…250

 21世紀は,人類が宇宙に進出する宇宙時代である。月や火星等の天体上に建造物を造って住むことも考えられるが,それらの天体は,地球とは重力や環境が大きく異なる。地球上と同じ重力が遠心力で容易に得られるスペースコロニーは,人類が移住可能となる宇宙に浮かぶ優れた近未来の人工建造物と言える。その内部での物理現象について議論することは,21世紀の物理教育を語る際に,興味深く有効である。

 

簡易光学台の試作とその応用…谷中 英昭・藤川 正樹・近森 憲助・跡部 紘三…256

 光学分野の学習は中学校理科第1分野で,重要な学習内容であるにもかかわらず幾何光学の部分を含み理解が難しい内容でもある。さらに,この実験に必要な光学台は高価で大きく各学校とも多くの台数を保有していない。そこで,生徒一人一人が光学分野の個別実験を行うことで,光の進み方やレンズの性質などに興味・関心をもち,これらの基礎・基本を理解し,さらには発展学習につながる探究心をもつことを目的として,光の3原色の発光ダイオードを用いて,安価で軽量の簡易光学台を試作した。その後授業実践を行い,良好な結果が得られた。

 

教科「科学技術」の実践−エネルギー・環境とものづくり−…川村 康文…262

 エネルギー・環境学習とものづくりに焦点化した独自科目「科学技術」を新たに設置し,その実践を行った。設置の動機は,青少年のための科学の祭典では,小学生は自ら理科実験を楽しみ喜び,また彼らの先生役をしている中高校生も,理科実験を指導しながら心の底から楽しんでいる。この気持ちを学校教育現場につなぎたいという思いからである。実験工作の楽しさを通して,エネルギー・環境学習や物理領域の学習を中心に理科学習を行った。その結果,学習者の満足度も高かったので,この実践を報告する。

 

 

私の工夫・私の実践

 

EXCELによる微分方程式の数値解を活用した力学の授業…平山  修…267

 EXCELを活用した微分方程式の数値解を大学1年前期の力学の授業などで活用した。解の変化の様子が学生の目の前で具体的に表現できるため,解析解と併用することにより,学生の理解と興味を深める上で効果があった。また,この方法を実際の授業で運用するにはいくつかの問題点があることが分った。

 

作図による放物運動の学習…米田 隆恒…270

 空気抵抗がない場合,初速が同じなら,物体は45゜上方に投げると最も遠くまで届く。これは,三角関数を用いて証明されるが,初心者にはわかりにくい。そこで本校では,自由落下を学習した後,作図によって斜方投射を学習し,その応用として最長到達距離の問題を扱っている。

 

 

50周年記念特集

 

研究論文に見る時代の流れ−特別論文を中心として…井上  賢…272

 本誌物理教育28-1(1980)の巻頭に掲載された大塚明郎氏の論文「物理教育の研究と論文」以降,現在に至るまで,本誌には4編の「特別論文」が掲載されてきた。改めて振り返り,これら論文を吟味して見ると,それぞれの論文が,この20余年の時代の流れの中で,ある意味で時代背景に要望されて実践されてきた「物理教育の研究」の報告であり,「物理教育の研究論文」のひな形として,学ぶべき要素を多く持っていることが見えてきた。また,それらの内容は,時代の流れを超えて,現代の物理教育現場の課題に対して,十二分に有意な示唆を含んでいることが分かった。

 

 

近畿支部特集

 

物理を基礎とした包括的理科の創造―特集にあたって―…近畿支部特集編集委員会 原  俊雄…277

 

21世紀理科教育の展望…秋山  和義…278

 21世紀には自然科学のあらゆる分野が物理学を基礎に統合・発展すると予想される。しかし現在わが国の高等学校理科教育は,生徒の多数が物理を学習しないため,きわめて不充分な状況にある。この状況を解決すために,新しい理科科目「物理を基礎とした包括的理科」を設けて必修化することを提案する。この新科目は,既存の科目,物理,化学,生物,地学などを,物理を基礎に包括し,全ての生徒に21世紀社会を生きていく上で必須の自然科学に関する基礎的素養を与えることをめざす。

 

包括的理科の創造:自然科学的思考法の習得−自然科学の言語としての数学−…原  俊雄…282

 高等学校における理科教育の抜本的な改革を目指して,物理,化学,生物,地学そして数学,情報を包括した新しい科目である包括的理科の創造を提案する。包括的理科は,自然の階層構造と保存則・普遍法則を基軸として理科全体,自然界全体を包括し,生徒が現代の科学的自然観と自然科学的思考法を習得することを目指す。本論文では,特に自然科学的思考法の習得に焦点をあてて報告し,理科教育における分析的仮説を提唱する。そして,数学を自然科学の言語として包括する具体的な方法について述べる。

 

自然の階層性から見た物理,化学,生物,地学…菅野 礼司…290

 自然科学は全体として一つの理論体系をなし,その扇の要に物理がある。それゆえ,理科教育は物理を基礎に据えた包括的体系として教えるべきである。その「物理を基礎とした包括理科」を組立てるための基礎概念と骨組みは,自然の階層性と,その全ての階層を貫いて成立する普遍法則であることをまず示す。自然の階層性には,物質の階層性と相互作用(力)の階層性とがある。そして,理科科目の物,化,生,地をそれら階層と対応させ,理科の四科目が「包括理科」の中で占める位置と相互関係を述べる。最後に,情報との関連にも言及する。

 

保存則で見る自然の包括的理解…大平 雅子…298

 理科教育混迷の大きな要因は,児童生徒が自然に対する理解,認識を発達段階に応じて論理的に構築していく教育課程が欠如していることにあると考える。学習指導要領で展開されるエネルギー概念形成の現状を考察する。これに代わって,全ての生徒が学ぶ,新科目「物理を基礎とする包括的理科」の創出を試みる。保存則を,柱の1つとして自然の階層構造に基づき,系統的包括的に自然現象を理解していく新しい理科教育プランを提案する。

 

包括的理科のめざすもの…田中 義人…302

 私達は,高校初学年に於いて必修をめざして,物理を基礎とし,物理,化学,生物,地学を包括した新しい科目である包括的理科を提案している。包括的理科のめざすものは,科学的概念が自然現象を理解するのにとどまらず,科学的概念が日常生活において,読み・書き・そろばんと同様不可欠であることを示すことにある。包括的理科を実現するためには,定性から定量への数量化が重要となる。本論文では,以上についての具体例を通して包括的理科が全ての高校生にとって必修に値することを述べる。

 

実物に則した理科教育…浮田  裕…306

 実物を使った観察・実験は直観的に科学的な概念・法則を理解するのに重要な学習方法である。すべての高校生の履修を対象とした新科目「物理を基礎とした包括的理科」における学習の一環として,物理,化学,生物及び地学の各分野にまたがる「実物に則した理科教育」を提案する。

 

 

図書紹介

 

STS教育読本…海老崎 功…310

 

 

Information311