◆物理教育 52-1◆

 

研究報告

 

有限領域の2次元電位分布の測定…遠藤  隆…1

市販の黒い紙を導電紙として用いて円形及び楕円形の2次元電位分布の測定を行った。電場を有限領域内に閉じこめることで,測定結果を理論と比較することが容易になった。

 

 

研究短報

 

暗室無し現象のピンホールカメラ…近藤 一史・伊知地国夫・津田 俊信・高橋  毅・豊田由里子…5

 ピンホールカメラの像を記録するには写真用白黒印画紙を使用することが安価で手頃な方法である。しかし,印画紙を装填・現像するときには暗室が必要である。そこで,感光防止フィルター付き印画紙ホルダーを作製し,暗室を使用せずに現像することを可能にした。この方法の大きな特徴は,明るいところで印画紙に浮かび上がる像の様子を観察しながら現像できることである。

 

 

私の工夫

 

レーマーの光速度測定のシミュレーション…山田 盛夫…7

 レーマーは木星の第1衛星の食を観測し,その周期の変動から光速度の有限性に気づき,さらに地球-木星間距離Dが最短の位置(衝)から3か月後の食の予定からの遅れを約10分と予告したり,光が地球の軌道半径REを伝わる時間を11分とも報告している1)。これを基に,地球が合の位置に達した時の食(113回目)の観測時刻の遅れをΔt=22分(現在の正しい値は996s)として,レーマーの光速度式c=2RE/Δtを得たものと推測される。これらの推論過程を地球の軌道半径REや光速度cを現在の正確値に替えてシミュレートし,解析を行う。

 

物理入門教育の双方向遠隔授業─仮説実験授業の遠隔授業化─…塚本 浩司・加納  誠・田崎美弥子…10

 大学院における遠隔授業の試行において,仮説実験授業の遠隔授業化を試みた。その結果,モニター参加者たちから高い満足度を得ることが出来た。そしてまた,現時点での遠隔授業の問題点・課題も浮き彫りになった。

 

ヨットを題材にした中高生向けの力学…梅田 洋一…13

 ヨットが進む原理は,力学的で面白く,中高生の興味を惹きつける。ヨットはセイルを流れる風によって生じる揚力などを利用して進む。今回,教室で手軽に揚力が働く様子を見せることのできる模型を考案した。この模型を使えば,ヨットの進む原理を,力の合成・分解の例として分かりやすく教えることができる。

 

力学教材「だんおりペット」の製作…端  平雄…17

 階段を下りる江戸時代の「からくり人形」をまねて,その動作原理を外から観察できるペットボトル製の人形(「だんおりペット」と名付けた)を考案した。透明のペットボトル中を洗濯糊が移動することによって,人形の重心が移り回転が生じて,段を下りるものである。重心,力のモーメント,衝突,エネルギー,振り子,回転運動などの学習に利用できる。また製作は簡易であり材料費も安価であるので,ものづくり講座等にも活用できる。

 

物理量の次元の視覚的表現…斎藤 健太…19

 

 

北海道支部特集

 

特集にあたって ─物理教育の活性化は必須の基盤─…小野寺 彰…21

 

シンポジウム 「新しい高等学校物理教科書について」

〜現場の教師はその変化にどのように対応するのか〜…横関 直幸・佐藤  健…22

 本支部では,2001年シンポジウム『北海道の物理教育 〜高校が大学に期待すること,大学が高校に望むこと〜』,2002年パネルディスカッション「高等学校学習指導要領と物理教育 〜新教育課程の実施を目前にして〜」,そして今回2003年シンポジウムということで,12月に開催される支部研究会において,高大連携を話題の中心とした議論を過去3カ年間継続してきた。2002年には,新教育課程における物理Tの冒頭で扱われる電磁気分野(生活の中の電気)に関して,様々な意見交換がなされたが,今回はそれも含めて,新しい物理Tの教科書について議論された。

 

『単位』の教育の重要性について…阿部  修…30

 日常生活でも,学校教育現場でも『単位』の正しい取り扱いが軽視されがちである。本稿は,物理教育にあってもいかに『単位』がないがしろにされているかを報告し,単位教育の充実を求めるものである。

 

音波の反射の指導で気になっていること…石川 昌司…34

 教科書では,音波の気柱共鳴を,閉口端は固定端,開口端は自由端として扱っている。しかし,これは音波を変位波として見た場合であり,密度波の立場に立つと,閉口端は自由端,開口端は固定端となる。密度波は,音波本来の疎密波の概念に近いので,感覚的にも分かりやすい。

 

室蘭工業大学における理科教育への取り組み…酒井  彰…36

 大学の社会貢献の一環として,地域との連携を深め,科学的な啓蒙活動を行ってきている。そのなかで,理科の面白さを実感してもらうことを狙いとして,室蘭市内の小中学校教諭を対象に行った講演会・施設見学会と小中学生を対象とした体験型ものづくり教室を紹介する。

 

模型スターリングエンジンによる物造り教育…山岸 英明・田中孝二郎・麓  耕二…39

 近年スターリングエンジンに対する関心が高まり,それを物造り教育に役立てようとする教育機関が増えつつある。著者らも模型スターリングエンジンや,模型スターリング冷凍機の製作を卒業研究のテーマに取り入れるとともに,スターリングテクノラリー技術会主催のラリー参加を目的に学生の同好会を立ち上げて活動を続けているのでその活動状況を報告する。

 

コズモサイエンス科の教育内容について…山田 大隆…42

 

おもしろ科学の祭典INびほろ…鈴木 孝子…43

 平成15年8月23日(土曜日),美幌町において科学の祭典が行われた。この事業は教育委員会が昨年,町内の児童を対象に行った「子どもの生活実態調査」をもとに今年初めて行う事業である。美幌町教育委員会社会教育課青少年育成専門推進員の西尾義明氏から,北海道各地で開催している科学の祭典を町内でも実施し,「科学の不思議さ,楽しさを体験するだけでなく,人と人とのつながりの大切さなども伝えたい」と打診を受け,開催の運びとなった。

 

鉛筆2本のスリットから鉛筆1本へ(物理TAにおける回折の指導)…佐々木 基…45

 デジカメと鉛筆スリットとロウソクを用いると,簡単に回折画像を得ることが出来る。仕掛けが簡単で原理がむき出しになること,画像を共有することで,生徒の興味を惹きつけることができた。また,説明を極力控えた授業の進め方で,生徒の反応もよかった。しかし,考査結果に反映できなかったので,多くの方にご批判をいただき,改善しようと考え,紹介する。

 

コンテスト形式の授業…堀 輝一郎…47

 平成15年10月から12月にかけての3ヶ月間,選択した生徒14名と行った授業の報告である。普段の授業ではなかなか見ることができない生徒の様子を見ることができた。

 

虹を主題とした「光の分散」教材…田端  修…49

 1月のある日のこと,本別町から池田町へ自動車で移動していると,太陽の左右に断片的なスペクトルが見えた。虹にしては方向がおかしい。その時点では浅学なため,そのスペクトルが何なのか,なぜできるのかわからなかったが,調べていくとどうも幻日の一種らしいことがわかった。このことをきっかけとして,光の分散の授業に「虹」を導入することを試みた。

 

配線用カバーを用いた物理実験(一つの教材から可能な実験を探る) …松田 素寛…51

 実験をおこなうときに教材の準備だけでかなりの手間や時間が費やされ,多くの実験に共通に使える教材(物)が少ないように思われる。身近にあるもので,ある一つの教材を用いて,多くの物理現象を説明することはできる。配線用カバー(教材)を使って可能な実験を探ってみた。

 

大型モンキーハンティング装置の製作…齋藤  隆・加藤 識泰…53

 モンキーハンティングを実証することは2物体の距離が離れるほど難しくなる。筆者の齋藤1)は古掃除機を活用したホバークラフトを10年前に製作した際,ゴルフボールを撃ち出すエアバズーカ砲を用いた本装置を作成し,今まで,授業で活用し,青少年のための科学の祭典等で紹介してきた。昨年度,北理研北空知支部研究会の製作講習会で,光スイッチの回路図をプリントパターン化により作りやすく,安定性も備わったので,今回新たに紹介する。

 

イニシエーションとしての高校物理教育 —実験バトルによる教育内容の予備的検討— …大野 栄三…56

 すべての高校生が履修すべき物理教育を,物理学という学問へ誘うイニシエーションという視点から考察し,実験バトルという活動がイニシエーションとしての物理教育の中でどのような位置を占めるのかを検討する。さらに,高校における課外活動での実験バトルの実践結果を報告するとともに,現在の高校生に実験バトルのような活動が必要とされる理由について論じる。

 

分子運動を見る(ブラウン運動の観察と計測)…岡崎  隆・森  剣治・遠藤 太郎…60

 科学研究費補助金「特定領域研究」「新世紀型理数科系教育の展開研究」のもとで行っている理科実験教材研究の成果を報告する。J.ぺランによる希薄なコロイド溶液の沈降平衡の観察・測定実験は,原子・分子の実在性を示す実験教材として有効である。また,運動方程式に基づくシミュレーション(VisualBasic)によって,ブラウン運動を様々な条件下で再現・考察することができ分子論に対する理解を深める教材とすることができる。

 

 

新潟支部特集

 

特集にあたって ─学力向上に向けての取り組み─…西川  徹…63

 昨年,8月に第20回日本物理教育学会教育大会(新潟大会)が新潟県長岡市で行われた。テーマは「学力向上への試み」ということであった。「ゆとり教育」による学力低下が叫ばれる中,いかにしてこの事態を打開し,活力ある理科教育を実践していったらよいか,さまざまな角度から話し合いがもたれた。出席者は小中高の現場の先生方をはじめ,行政並びに第三者機関の方々からも多数集まっていただいた。これまで教育上の懸案事項を論ずるとなると,とかく高校あるいは中学校といった限られたなかでのやりとりが通例であった。今回この研究会では学校の枠組みを越えて,もっと広い視野から今の教育の危機を考える機会をもつことができ,意義深いことであった。例えば,物理の枠組みを越えて,情操・志操の育成という観点から理科教育が論じられる場面もあったのである。

 授業を充実し,生徒の興味関心をよびおこす教師の取り組みからSSHといった文科省指定の教育活動まで,さまざまな活動がこの年会で紹介されたが,中でも学校教育のサイドからでなく,地域から第三者機関の方々による教育活動の新たな‘のろし’ともいうべき取り組みが紹介されていた。

 この草の根運動というべき活動は新潟県長岡市 「21世紀長岡の「知」を創造する会」で平成7年度より行われている。これは小林虎三郎の「米百俵の精神」を今に生かすために,学校という枠組みを越えて,民間サイドから小・中・高校教育への協力・支援を行っていこうという組織である。このような具体的取り組みがみられるのは,教育全体の活性化にとって心強いことである。 しかも,この会の中核となっているのは,元教育現場で理科,特に物理教育に携わってこられた方々であるから,今後の活動が期待される。

 以上第20回の年会を受けるような形で,今後の理科教育の向上に資することを願いつつ,新潟支部特集ができあがった。テーマも「学力向上のための取り組み」である。

 最後に,学力低下に歯止めをかけるためには,もはや単独の教科のなかだけで対処するには限界がある。むしろ,藤原正彦氏(お茶の水大学教授)が述べられているように,幼少から小中高校に至る教育課程の枠組みそのものを,わが国の文化,伝統,情緒,自然という視点に立ち返って考え直さなければならない時期に来ているのではないかと思われる。

 

20回日本物理教育学会物理教育研究大会(新潟大会)分科会報告 「学力向上への試み」から …小島 祐一・西川  徹・細谷 澄夫…64

 平成15年度日本物理教育学会年次集会の分科会では「学力向上フロンテア」をテーマとして話し合いがもたれた。分科会は3カ所に分けて行われ,新教育課程のもとで「学び」の姿勢・方法をどのように捉え,生徒の学力向上に繋げていくのがよいか,行政サイド・小・中・高の現場の教師・第三者機関等いろいろな立場から活発な意見交換がなされた。分科会Uでは,物理という枠組みを敢えてはずして,学校教育全般より「学力向上の試み」について意見を聞いた。本編ではその内容の概要報告を述べる。

 

長岡高校 スーパー・サイエンス・ハイスクールについて…長谷川 雅一…74

 平成14年度,長岡高校は文科省よりスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)に指定された。これは,理科・数学の教育を重点的に行い,将来の科学技術者の育成を図る研究事業である。期間は3年間,本校では理数科の学年1クラスを対象として実施した。事業内容は,カリキュラム変更,大学研究機関との連携,講演会,夏期研修,課題研究・研究発表会,理数系部活動支援等である。生徒は講演会やSSH事業をを通じて様々な最先端科学を見学・体験し,さらに自らのテーマに基づいた課題研究を行うことにより,自然科学の面白さや奥深さを学んでいる。3年生は平成15年6月に課題研究の発表会を開き,半年間の研究成果のプレゼンテーションをおこなった。

 

これまでの物理授業と学力向上…西脇 正和…78

 最近の高校での物理授業は楽しい物理を目指してきた。それは理科離れを防ぐためだった。基礎的な物理の内容を生徒につける方法がこれからの課題。私の工夫した方法の例を紹介する。学校の実情に合った方法を考えること,それを共有してゆくことが学力向上につながる。

 

体験から学ぶ物理の指導プログラム…田村 盛彰…80

 A instruction of Experimental Physics using many experiments was practiced at Ojiya senior high school during 5 years.  In order to awake the curiosity and get the understandings of students on Physics, the instruction program that was filled with many experiments was formed originally, and was practiced from 1996 to 2000.  After the lesson, many students estimated the Experimental Physics high as interesting Physics.

 

物理Uの授業…坂井  章…86

 学力向上を目標にすることは当たり前のことであるが,今年度・平成15年度の物理Uの授業では,毎時間の小テストと実物の提示を行い学力向上に少しでも資するようした。小テストは教えた内容の定着を図るだけでなく講義の補助の役割を持たせた。実物の提示は興味の喚起をねらったものである。まだ年度途中であり今年度の授業評価はこれからであるが,11月末までの授業の紹介をする。

 

学力向上に向けて…溝口 直樹…89

 学力の向上というときの学力として何を想定しているのだろうか。大学入試問題が解けるようになることが物理で求められている学力だとしたら,それは優秀な生徒とそうでない生徒とを選別するだけの役割しか持たないだろう。

 そのような選別するための物理ではなく,高校で学ぶべき本来の物理は何であるかを考え直し,それに基づいて学力の向上を目指すべきだと考える。

 

Windows環境での手軽なコンピュータ計測…笹川 民雄…92

 

教科書の問題から受験問題への指導例…村山 正美…96

 高校物理の学力向上を本校の現状の中で取り組んだ実践を紹介します。7限授業,部活をやる生徒が多いという状況,さらに放課後は他の教科の補習などで学校での十分な指導時間が取れない中で,「物理TB」4単位の授業と家庭学習に期待をしながら,2年生の後半から始まる模擬試験の対策をしてきた。教科書前半の力学分野について指導例をあげてみたい。

 

 

紹介

 

物理教育の国際的動向−ICPE Book 「Physics Now」より…笠  潤平(翻訳)…98

 PSSC以来の半世紀に世界中で行われた多くの中等教育段階の物理カリキュラム改革を振り返ると,カリキュラム開発は各国や時代の状況に合ったものであるべきで,単一の処方箋はないことがわかる。他方,教師はたんなる受け手ではなくカリキュラム改革の参加者であるべきである。現在も,物理学の進展,ITの利用,物理教育研究の成果の反映などの課題がある。

 国際物理教育委員会が2003年に電子出版した「Physics Now」の「物理教育」の章の翻訳で,訳文の前に「Physics Now」についての簡単な説明がある。

 

 

談話室

 

母乳語と離乳語…青野  修…103

 

 

学会記事

 

IUPAP物理教育国際委員会(ICPE-2003)報告…笠   耐…105

 2003年IUPAP-ICPE(国際純正応用物理学連合‐国際物理教育委員会)は8月23-24日にオランダのNoordwijkerhoutで開かれた。これは同地で8月19‐23日に開催されたESERA(ヨーロッパ科学教育研究)会議2003の直後であった。ここでは2003年ICPE委員会について報告する。

 

2003年度“入試懇談会part 2”報告

 —高校新課程物理の課題と2006年大学入試問題物理出題範囲について—…入試検討委員会…108

 入試検討委員会では,春の「入試懇談会」の延長線上で,「入試懇談会part 2」を実施した。話題は主に,「新課程」の問題点と「2006年入試出題範囲」のあり方に関するものであったが,高校・大学関係者それぞれからの忌憚の無い意見が発信され,「出題範囲の限定」をキーワードに,高校及び大学教養段階の「物理カリキュラム」のあり方や,「高大連携」の問題,「新課程」に関わる情報不足等について,有意義な意見交換が実現した。

 

会誌「物理教育」をより身近なものにするために…会誌「物理教育」編集委員会…111

 

 

Information…113