◆物理教育 52-2◆
研究報告
簡易気圧計の製作…小池 守・小林 辰至・高津戸 秀・西山 保子…123
センサ部分に駒込ピペット用ゴム帽を用いて教材用の簡易気圧計を製作した。センサ部を密閉装置内に置き,大気圧を基準として-150 〜 +150 hPaの範囲で加圧と減圧を行ったところ,気圧計の液柱の高さは約0.81mm / hPaの割合で変化した。さらに,気圧の学習を行ったことのない小学校5年生を対象に,本教材の製作を通して気圧の学習を行ったところ,目に見えない空気の存在や重さ,圧力について,自分なりの考えを構築していく姿が見られた。また,自作気圧計を用いて,気圧を測定する活動を通して,測定に必要な条件を見出す学習が成立した。このことから,本教材はもの作り体験を通して,気圧の意味やその測定条件について追究する問題解決学習として利用できることが示唆された。
電子天秤を利用したアンペールの力の測定…本弓 康之・林 正博・大谷 徳樹・富永 昭…128
直線電流が磁場から受ける力を高精度で測定する測定方法を開発した。この測定方法は,取り扱いが容易で,測定結果の信頼性も高く,物理教材としての教育的効果も高い。また,使用する直流電源の電流が小さく,電圧も低いので,感電などの危険性が少なく,安全にアンペールの力を測定できる。
仮説実験授業の理論と,1980年以降の英米における“新しい物理教育研究”…塚本 浩司…133
“仮説実験授業”は,板倉聖宣(国立教育研究所,当時)によって1963年に提唱された科学教育の授業理論であり,学校教育現場で大きな成果を上げている。しかし日本国外には,その理論・実践はこれまでほとんど紹介されることはなかった。にもかかわらず,近年の米国・英国を中心とした物理教育研究と問題意識が似通っている点が多い。本論文は,この仮説実験授業の基礎理論およびその具体的内容・成果と,欧米における近年の物理教育研究史を対比しながら論じる。
エネルギー変換に関する不適切な問題…青野 修…140
私の工夫
音でワイングラスを割る…小田部 泉…142
物体はそれぞれの固有振動数をもち,その振動数の外力が加わると共振現象をおこす。ワイングラスやビーカーにその固有振動数と同じ振動数の音波を当てることによって共振を起こさせ,これらのガラス製品を破壊する実験を行った。デモ実験として効果的であるので報告する。
共振時の位相関係を平易に調べられる実験…五十嵐 靖則…145
連成振り子を用いて,力学系での共振時の位相関係を平易に調べることのできる簡易な実験の方法を工夫した。大学の講義実験の授業の中で個人実験として実施したところ学生の評判もよかった。
紹介
幼稚園教諭の理科教育的バックグラウンド−世界の物理学は幼稚園の砂場から−…八木 一正・久坂 哲也・渡邊瑛子…147
「三つ子の魂百まで」幼少期の教育環境は理科・物理教育にとっても重大である。そこで,幼稚園を対象に,教師が理科教育的にどのような履歴を持ち,現在それらにどのような感慨を持っているか等を調査し,そこにある問題点を明らかにした。その結果は驚きに値するものがある。これらを今後の理科教育あるいは物理教育の改善に帰するためにデータをもとに考察を深めた。
紹 介
大学と連携して実施した高校生のNASA研修について…堀 亨…152
本校理数科において平成11年度から毎年実施している海外科学技術研修と,大学や各研究機関との連携講座を積極的に導入し展開しているスーパーサイエンスハイスクール(SSH)としての活動を融合させ,平成15年秋に米国パサデナにあるNASAジェット推進研究所にて高校生の校外研修を実施したので,その様子を報告する。
慣性実験における逆転現象…岡本 淳平…156
この科学研究は本校生徒の米谷哲明,檀浦匡隆,武田悠佑,大濱康弘によるもので,そのテーマは,物体の上下に糸をつけ,上の糸でつり下げて,下の糸を引く実験についてである。本報告ではこれを「慣性実験」と呼んでいる。この実験に関する生徒の科学研究指導を通して興味深い結論を得たので報告する。慣性実験では下の糸をゆっくり引くと上の糸が切れ,速く引くと下の糸が切れる。ところが,速く引くと上の糸が切れ,ゆっくり引くと下の糸が切れるという「逆転現象」も起こり,その原因は糸を引く速さに応じて切れる糸が交互に変化することであるとわかった。なお,本研究は第47回日本学生科学賞において文部科学大臣賞を受賞した。
第19回日本物理教育学会東北支部研究発表会
東北支部シンポジウム「理科教育を考える」
♢新教育課程は現場ではどのように実践されているのか♢…司 会 志摩 茂郎(宮城工業高等専門学校) パネリスト 佐藤 善雄(仙台市立野村小学校)・佐藤 淳一(仙台市立山田中学校)・文屋 優(宮城県黒川高等学校)・井口 泰孝(東北大学大学院工学研究科)…161
連載
ノーベル賞受賞者たち(6)湯川 秀樹…西條 敏美…169
昭和24年(1949),物理学者の湯川秀樹(1907−1981)は日本人として初めてのノーベル賞を受賞した。それは「核力の理論研究による中間子の存在の予言」という業績に対する物理学賞であった。このニュースは,戦後日本の大きな自信と希望につながったという。爾来半世紀が経過し,また湯川が死去してからでも四半世紀になろうとしている。湯川の足跡を記念碑などを巡ることによって紹介する。
談 話室
楽しく,興味深い科学から,知的拷問の科学の授業へ…福島 肇…174
数学・物理における周期の定義について…林 昌樹…176
図書紹介
東国科学散歩…大井 みさほ…178
委員会報告
2004年度センター試験問題の検討…日本物理教育学会 入試問題検討委員会…179
センター試験を利用する大学の数は年々増加の傾向にあり,入学試験におけるセンター試験の影響は益々大きくなっている。
日本物理教育学会では,物理TAの検討は近畿支部,北海道支部を中心に行い,物理TBについてはアンケート調査を実施し,その結果をもとにして入試検討委員会で検討をおこなった。更に総合理科受験者が今年はついに物理TAの受験者の25倍にもなったことをかんがみ,総合理科についての検討も新潟支部を中心におこなった。その検討結果は大学入試センターに意見として送った。検討の内容を3部に分けて報告する。
なお,センター試験の問題と解答は物理教育学会ホームページ(http://wwwsoc.nii.ac.jp/pesj/)に掲載してある。
追悼
柏木聞吉先生と物理教育用語…広井 禎…188
平田邦男先生と物理教育国際交流…笠 耐…189
Information…190