◆物理教育 52-3◆

 

 

研究報告

 

能動性開発型物理実験法…齋藤 嘉夫・車田 真実・吉本 則之・墻内 千尋…205

 装置製作からはじめる学生実験を企画実行した。学生の能動性の育成を目的としていて,これを能動性開発型物理実験と呼ぶ。課題は準備された4つから選ばれる。実例を参考にして装置を設計し,必要な材料の調達・購入も学生自らに課した。 学生は悩みながらも生き生きと製作に励んで問題を解決していった。 能動的に実験に取り組んだその様子から学生の個性が観察できた。学生が研究の疑似体験を実感したことが,彼らの論文から明らかとなった。 能動性開発型物理実験は学生の能動性の育成と能力発掘・向上に効果があることがわかった。

 

小学校理科物理分野実験実施状況についての調査報告…河村 篤毅・唐木  宏…211

 当学園における中高一貫物理カリキュラムの改訂に先だち,中学入学時に26項目の小学校物理実験を示し,それぞれ自分でやったか?演示を見たか?に答えさせる方法で,それらの実施状況を調査した。その結果,全項目の実施率の平均が73.3%,内12項目については80%以上の生徒の記憶に残る形で実験の実体験があり,予想を超えてよく実施されていると思った。その実状を報告し,これがその後の物理教育に活かされることを期待する。

 

パソコン実験での等速円運動の検証…井上 新悟・田中 義秋…214

 等速円運動を観念的1) に,或いは,実験2)3) で理解させる試みはこれまでに幾つも報告されている。それぞれの工夫に教育効果が期待できるが,もっとダイレクトに現象の特徴を生徒たちに把握させる為,2軸加速度センサーのデータを基にして,等速円運動を理解するパソコン実験での学習の試みを行った。

 

教員養成系大学生の明るさと温かさに関する認識と実験…西山 保子・教野 雄一・高津戸 秀…218

 光の明るさと物の温かさについての認識調査を本学学生にたいして行ったところ,光の明るさと物の温かさは比例するとの回答が80%以上に達した。また,物の温かさについては色のイメージなどからの回答が約半数に達し,赤外線によると回答した者が極めて少なかった。そこで,教員養成系大学生を対象とした光の明るさと物の温かさについての理解を深める実験を検討した。それは舞台照明用カラーフィルタや種々のガラスフィルタを透過した光による照度と上昇温度を測定し,分光透過特性をもとに考察するものである。

 

アイデアの発生場面を重視した光波の授業−物語性を基に−…中村 泰輔…223

 光を波と捉える契機となったグリマルディの実験をヒントに,光を波と捉えるアイデアの発生場面を重視した光波単元の授業を,物語性を考慮して立案し実施した。観察教師・学習者による評価を通じ得られた本授業の評価点は,科学におけるアイデアの重要性を学習者が経験・理解する可能性を見出したこと,物理や探究の対象を身近に感じることにつながったこと,関心の高まりや概念に対する理解の深まりが見られたこと,学習者にとっての科学像・科学におけるアイデア・科学が生まれる過程についてのイメージの変換に変化が見られたことの四点である。

 

永久ゴマ回路におけるトランジスタのツェナー電圧…大谷 徳樹・富永  昭…228

 永久ゴマ加速装置の働きを理解するため,デジタルオシロスコープを用いて電圧の時間変化を測定し,解析を行なった。ベース−エミッタ間電圧においてトランジスタの電流増幅作用がOFFとなっている時間帯に−8V程度の定電圧が生じている。この定電圧は,トランジスタのベース−エミッタ間における電子なだれによるツェナー電圧のあらわれである。ベース−エミッタ間はツェナー電圧8Vのツェナーダイオードとして振舞う。

 

地球温暖化デモンストレーション実験器…川村 康文…233

 地球環境問題について学習ができる実験教材を求める声は大きい。これまでにも地球温暖化を,実験を通して視覚的に説明するための実験器を製作してきたが,今回,実験結果が安定に得られるものが完成した。簡易な地球モデルを2個用意し,一方の地球モデルはそのままの空気の状態に,もう1方の地球モデルは二酸化炭素が充満した状態にし,温室効果の比較を行うものである。この実験器の特徴は,地球モデルを熱源の周りに周回させ,各地球モデルが単位時間あたりに熱源から受ける熱量を等量にした点と,実験器を持ち運びしても精度が狂わないように製作することにより,社会教育の場面などに出前実験器として利用が可能な点である。

 

 

東北支部特集

 

理科教育における小・中・高・大の連携…東北支部特集編集委員会…237

 東北支部では,昨年度から「シンポジウム《理科教育を考える》」を企画実施している。昨年度は,「学校5日制と新教育課程,総合的な学習の時間とセンター試験への対応,等」について話し合いが行われ,今年度は,更に観点を深めて「新教育過程ではどのように実践されているのか」について真剣に話し合いを行った。

 小・中・高・大の先生方が一堂に会し,同じテーマについてじっくりと討論することは余りないだけに赤裸々にお互いに考えていることや悩みを述べ合うことによって,相互に理解を深めることができた。こうした話し合いが,やがて今後の児童,生徒,学生の理科教育特に物理教育の指導で大いに役立つのではないかと考えている。高校・大学の先生方は,殆ど小・中の先生方の日常での児童,生徒に対する学習指導や特別教育活動の内容について詳しく知る機会がないので,シンポジウムを通じて小・中学校の先生方が現在置かれている校内外での忙しく厳しい立場を理解することにより,改めて義務教育における「理科教育の大切さ」の認識を深めることができたのではないかと思う。一方,小・中学校の先生方についても,高校や大学の先生方が各学校や各大学で置かれている現状を同様に理解することができたのではないかと考えている。

  「理科離れ」が叫ばれて久しくなるが,子供達はけっして「理科が嫌い」ではなく,「理科に取り組む」切っ掛けがないのだと思う。それは指導する先生方にも責任の一端はあると考えている。小・中・高・大の先生方がお互いに情報を交換し,未来ある青少年のために連携して教育して行かなければならないと,2回の「シンポジウム」を通じて,出席者はお互いに十分に認識したのではないかと思う。

 ところで,東北支部では「シンポジウム」だけでなく,7つの研究についても発表したい。先生方が,常日頃考えていることや学校において取り組んでいることをまとめたものである。今後の生徒達の理科教育特に物理教育に是非活用して頂きたい。

 なお,これらの発表は,「東北物理教育」第13号(2003)に掲載されたものであることを付記しておきます。ご了承をお願い致します。

 

NPOと連携した6本足ロボットの製作…田中 敏公…238

 3年生の選択物理(22名 男20名 女2名)の授業をつかいNPOと連携した6本足ロボットの製作を課題研究の一環として行った。6日間にわたり計6時間の授業実践を紹介する。ものづくりの大切さが言われているが,NPOと連携することによって生徒が主体的に取り組む実践ができたように思う。また,授業の始まりの5分を使い,NPOについてのミニ講義も行った。

 

手作り分光器を用いた光のスペクトルの観察〜観察・ものづくりを重視した物理学実験の試み〜…宮崎菜穂子・目  修三…240

 工学部に入学してくる学生には,少なくとも常識であろうと思われていた“ものづくりの経験・観察力・興味の持続”という事が近年希薄になり始めている。その対応のひとつとして,工学部の学生としての意識向上を目的とした,観察・ものづくりを重視した実験テーマを1年次の物理学実験で実施してみた。その実験テーマの実例と学生の反応を紹介する。

 

超電導ジェットコースターの教材開発(U)…八木 一正・佐々木 修一・久坂 哲也・八木 一平…244

 今,科学技術の最先端の話題を教材に入れた授業の構成が,声高に叫ばれている。物理教育において,超電導現象は,話や映像としては広く知られているが,身近で体験することはほとんど皆無である。そこで,それを実現しようと,現在その教材の開発に取り組んでいるので紹介する。

 

磁気ボールにおけるメタファ活用(U)…久坂 哲也・渡邊 瑛子・S. NashonD.Anderson・八木 一正…246

  “磁気ボール”というおもちゃの動きは,理科の授業では直接目で見ることができない細胞分裂や核分裂などといった現象に極めて類似している。そこで,実際にその磁気ボールを理科授業におけるモデル実験として活用し,メタファとして磁気ボールの有用性を広めていくことを目的とした。そのために,まず学校教員を目指す大学生にこのモデル実験を体験させアンケートによる調査を行った。その結果を統計学を用いて分析し,今後の学校現場での実践に向けての有用性を確認した。

 

LED利用法…渡辺 智和…249

 最近は紫外線領域のLED (light emitting diode)が自由に入手できるようになった。さまざまなLEDが使用され表示するための重要な素材の一つになっている。電流を流して発光する使い方が普通の使い方である。3色LEDで光の三原色の実験に使う方法を提示し,LEDの逆利用,すなわち,LEDに光をあてて電気を得る方法を示してみたい。LEDの逆利用についてはインターネットのWEB上で数多く示されている。これを追試して,まとめてみた。

 

特別授業「水の波」の授業評価の試み…堀込 智之…254

 最近,NPOの地域資源活用センターやスーパーサイエンスハイスクール(SSH)などから声がかかり,地域の方々や高校生を対象に講義をすることが増えた。      

 一方,理科離れが叫ばれてから久しい。文部科学省が2002年11月に高校3年生を対 象に実施した全国規模の学力調査結果によれば,数学と理科は想定していた正答率を大幅に下回り,学力低下を裏付けた。特に深刻なのは「入学や就職試験に関係なく大切か」との問に,理科は肯定的回答が35%以下にとどまったことである。              

 「理科離れを止めるための課題はなにか」そんな問題意識を持って,自分の授業を専門高校(A高)とSSH(エキ高)の生徒に評価してもらい分析した。ご批判をいただきたい。

 

直感的に操作できる物理シミュレーションソフトの開発…加藤 徳善…259

 直感的に操作できる一群の物理シミュレーションソフトを開発したので紹介する。これらは,現実の物体を扱うような感覚でだれでも簡単に操作でき,いろいろなパラメータについて意識しないで試すことができる。Javaアプレットとしてインターネット上で公開したことで,物理の授業などで簡単に利用でき,物理の概念形成や,物理的センスの育成に有効に使えると考える。

 

 

連載

 

ノ−ベル賞受賞者たち(7)ウイ−ン…高田 誠二…262

 

 

図書紹介

 

近代科学の足跡をたどる−ニュートン力学の確立過程を概観する−…広井  禎…267

 

 

読者の声

 

会誌のA4化について…青野  修…268

 

 

委員会報告

 

全国物理コンテスト「物理チャレンジ2005」を成功させよう…北原 和夫・並木 雅俊…269

 

物理チャレンジ2005の開催準備状況…大山 光晴…271

 シンポジウムや2年間にわたる検討委員会での議論の結果,来年の国際物理年に,高校生を対象とした物理コンテスト「物理チャレンジ2005」を開催することになった。第1回の実行委員会が6月28日におこなわれ,コンテストの概要,組織および今後の活動計画の一部が明らかになったので,学会員の皆様に報告をする。物理教育学会としては,アンケートの結果を重視し,このコンテストは教育的な視点に重きを置いて高校生をインスパイアすることが目的の行事であると考えるので,この点を今後の実行委員会の席でも発言していきたいと考える。ぜひとも会員諸兄の応援をお願いしたい。

 

「第13回今春の物理入試問題についての懇談会」(東京)報告…入試検討委員会(入試懇談会担当WG)・関東地区連絡会(準備会)…273

 東京における「今春の物理入試問題についての懇談会」(通称「入試懇談会」)も第13回となった。2年後に迫ってきた「2006年問題」とその背景にある「新課程」をめぐる課題も活発な議論の対象となり,今回も非常に有意な意見交換が実現された。また,各大学の問題に関連する議論からは,各大学ともに,受験者の学力的な現状認識を図り,その問題点を積極的に出題意図に反映させようとしていることをうかがい知ることができた。中等教育(及びそれに接続する大学初年級)における物理のカリキュラムの問題を軸としつつ,大学・高校間の相互理解と提携が,今後ますます重要になって行くであろうことが,実感させられた。

 

日本学術会議「科学教育研連」シンポジウム報告…川勝  博…278

  [科学のための科学]を基盤にした[社会のための科学]に向けた新世紀の科学教育と題するシンポジウムが,2004年3月16日,学術会議第4部科学教育研究連絡委員会の主催で東京・乃木坂の学術会議会議室で開催された。司会は,波田野彰氏(帝京平成大学)と川上昭吾氏(愛知教育大学)が担当された。

 

最近の学術会議科学教育研連のシンポジウム…広井  禎…280

 

 

緊急提言…281

 

 

Information…284