物理教育53-1

 

巻頭言

国際物理年…霜田 光一…1

 

研究報告

高校生向け講座「先進科学塾・通信のしくみを探る」…清水 祐樹…2

 

 一日限りの科学イベントではなく,希望者を募って継続した活動を行うため,有志による「先進科学塾」を立ち上げた。2004年度第1回の講座は「通信のしくみを探る」として,情報通信の基本的なしくみを電磁気学などの原理を用いて説明する約20種類の実験を行った。自由研究では,受講者は自ら研究テーマを設定し,実験や研究発表に取り組んだ結果,一日限りのイベントには無い体験ができた。

キーワード 情報通信,電磁気学,科学イベント

 

研究報告

空気ロケットの教材化とその授業実践…寺田 光宏・西川  純…6

 

 生徒たちの物理への興味・関心を高めると同時に学習内容とつながりをもち,目的意識をもって学習できる空気圧だけで飛ぶ空気ロケットを利用した教材を開発した。空気ロケットは水を使わないため原理的に簡単で屋内で実験でき一般の測定機器の利用が可能である等の特徴をもつ。この特徴を利用して「空気ロケットを作成し,目的地に正確に着地させる」ことを目標に講義と実験を構成した。本論では,開発した特徴ある実験の方法と生徒が求めた実験結果を表した。また,実践した後,この教材に対しての生徒たちへのアンケート結果や感想を示した。

 

研究報告

注射器を利用した「エネルギー実験器」…吉村 高男…12

 

 エネルギー概念は,自然の変化を総合的に,積分型として捉える際に極めて有効である。「エネルギー」は,よく知られているように「仕事をする能力」と定義できる。よって,ある状態にある物体の「エネルギー」を物理的に捉えるためには,その物体が外部に対して行う「仕事」をいかに測定するかが鍵となる。「仕事」を測定する従来の杭打ちの方法では,再現性が悪くばらつきがひどい。衝突部に小型の使い捨て注射器を使うことで再現性の良いデータが得られることがわかったので報告する。

キーワード 使い捨て注射器,エネルギー,仕事,エネルギー実験器,杭打ち

 

研究報告

航空機による微小重力実験ビデオ教材の製作とその活用…大山 光晴…17

 

 高等学校の物理の授業で活用することを主たる目的として,小型ジェット機を用いた微小重力実験をおこない,重力加速度の値の変化に対応した,斜方投射された物体の運動や振り子の周期を求める実験等を撮影することに成功した。その後ビデオ教材として,高等学校の授業や小中学生,教員等を対象とした科学実験講座や研修会でその活用をおこない,無重量状態への理解を深める教材として一定の評価が得られたので報告する。

キーワード 無重量状態,微小重力実験,重力加速度,斜方投射,振り子の周期,ビデオ教材

 

研究報告

高校における質量概念形成の実態と問題点…綿引 隆文・湊   淳・小澤  哲…23

 

 高校生は,質量概念について,顕著な前概念を持つことが知られている。複数の学校において,学習前と学習後の生徒に調査を行ったところ,学習後も質量概念について,十分な概念形成がなされていないことがわかった。伝統的に行われてきた授業や実験についての問題点を明らかにする。

キーワード 質量概念,概念形成,前概念,重さ,摩擦,力

 

私の実践

発光ダイオードによる振動電流の観察…原田 啓一…31

 

物理教育ワンポイント

物理を自分のことばで理解する…岸沢 真一…33

 

報告

マレーシア政府派遣学部留学生に対する予備教育…根本 和昭・菅野 和弘・梶谷 秀継・中村 一治・丸茂 克広・伊藤 晋司…34

 

 マレーシアには,日本の国立大学に学生を組織的に留学させる制度がある。留学前には,マラヤ大学予備教育部において2年間の準備教育が行われており,その2年目には日本から派遣された教員らによって,日本語による物理・化学・数学の指導が行われている。ここでは,留学準備の為の物理教育の現状を報告する。

キーワード マレーシア,日本への留学制度,マラヤ大学予備教育部,留学準備の為の物理教育,海外教育

 

報告

県教委と連携した小中学校理科授業資料づくり…川勝  博…38

 

北海道支部特集

北海道特集にあたって  −物理教育研究全国大会に向けて−…中野 善明…42

 

 北海道支部は1969年に発足して今年で36年目を迎える。この間,毎年休みなく,総会,招待講演,シンポジウム,支部研究会が実施され,1971年からは支部会誌「物理教育研究」の継続発行も行われている。また1995年から札幌市で開催されている「青少年のための科学の祭典」でも北海道支部が中心的役割を果たし,今では道内9ヶ所で開催するまでになった。2000年から始められた支部主催の「−公開シンポジウム−青少年のための創造科学実験」は中高大の教師による中高生,一般市民を対象に身近な理科実験体験,普段あまり体験出来ない最新科学の公開実験,特別講演などにより理科振興に着実に成果を上げている。昨年は,支部会員が顧問の北海道南茅部高等学校理科部が日本学生科学賞「内閣総理大臣賞」を受賞,課外で活躍する高校理科教師の新聞紙上での紹介など朗報があった。多くの支部会員は地域性を活かし様々な形の研究や実践で活躍している。この支部特集でこれらの一端を報告する。

 さて,若干26歳のAlbert Einsteinがブラウン運動,光電効果,そして特殊相対性理論の論文を発表したのは今から100年前のことである。このEinsteinの業績を記念して今年を世界物理年と呼び,世界各国で記念イベントが計画されている。日本においても日本委員会(有馬委員長)が組織され,国内でも各種のイベントが計画されている。イベントの一つに物理チャレンジ2005があり,これの組織委員会(北原和夫委員長)が昨年9月に発足した。現在8月12日〜15日の開催(岡山市)に向けて準備が進められている。このチャレンジのプログラムには物理コンテストがあり,これは国際物理オリンピックの派遣者選抜の貴重なデータとなる。基礎学力の低下が叫ばれる中で,何とか国際の場で良い成績をあげてほしい。

 この記念すべき年に北海道で物理教育研究大会が開催されることは,北海道支部としても感極まるところである。既に実行委員会が発足し開催準備が進められている。期日は8月6日(土),7日(日)の2日間,会場は北海道薬科大学(小樽市),大会テーマは「科学と社会のコミュニケーション」である。翌日の8日(月)には,この大会のサテライトとして世界物理年記念事業「科学者と語ろう!サイエンストーク2005」(北海道大学,札幌市)を開催し,サイエンスショーと講演会を実施することになっている。

 最後に,「ゆとり教育」の影響であろうか?新聞報道にもあるように日本の若年層の学力低下は世界的に見ても進んでいるようだ。特に読解力や問題解決能力,そして理科関係などが良好とは言えない。ついに先頃,物理系3学会会長から「初等中等教育に関する提言」が出されたが,今後も絶えず社会に情報を発信していく努力が必要であろう。しかし現場教師の懸命な努力も限界がある。やはり国の教育制度改革でなければ根本的な解決にはならない。部分的マイナーチェンジではなく初等から高等教育機関まで全体を一連の流れで日本国民をどうのように教育していくかを考えるべきである。それには「科学とは何か」というものを社会に理解してもらう必要がある。勿論,これからも我々の地道な努力は当然であるが,今後はこのような「科学と社会の橋渡し役」の専門家として科学コミュニケーターなども必要になるであろう。将来,日本のEinsteinの誕生を願って!

 

北海道支部特集

04青少年のための科学の祭典富良野大会…深澤  徹…43

 

 平成16年8月7日(土曜日),富良野市において科学の祭典が行われた。この事業は富良野市教育研究会理科班が中心となって,富良野地区の青少年を対象に行った今年度初めて行う事業である。

 北方圏理科教育振興協会理事長の斉藤 孝氏から,北海道各地で開催している科学の祭典を富良野市でも実施し,「科学の不思議さ,楽しさを体験するだけでなく,人と人とのつながりの大切さなども伝えたい」と打診を受け,富良野地区の教員や有志により実行委員会を立ち上げ実施した。

 

北海道支部特集

クントの生徒実験を実施してみて−気柱の共鳴の視覚化−…松田 素寛…45

 

 気柱の共鳴実験は共鳴音から,音の波長を得ることが一般的である。クントの実験を生徒実験としておこなうことで気柱内の媒質の動きの視覚化をおこなった。

 また,ダイジェストビデオで,観察ポイントの説明をおこない,スムーズに実験に取り組めるよう配慮した。ダイジェストビデオや実験の感想をアンケート結果から探り,この生徒実験の効果等について考えてみた。 

キーワード 気柱の共鳴,定常波,視覚化,音波ソフト

 

北海道支部特集

スターリングエンジンの教材化…石川 真尚…47

 

 高等学校の物理分野で扱われる熱力学は,純粋な物理現象として,ともすれば抽象的な内容になりがちである。物理の授業で扱う内容に近い熱機関の実物を見せることができれば,より具体的なイメージを持たせやすく,また,生徒の興味関心を高めることができると考えた。今回,手軽に演示に使用できる低温度差作動型のスターリングエンジンの製作を試みた。また,それを使用した授業を紹介する。

キーワード スターリングエンジン,試作,教材化

 

北海道支部特集

偏光板とポリプロピレンによる着色現象に関する考察

−日本学生科学賞における内閣総理大臣賞受賞報告−…堀 輝一郎…51

 

 本校理科部は2004年12月に開催された第48回日本学生科学賞中央審査最終審査において北海道の高校としては初めて最高賞である内閣総理大臣賞を受賞した。その研究内容と活動内容について報告する。

キーワード 偏光板,ポリプロピレン,日本学生科学賞,内閣総理大臣賞

 

北海道支部特集

光硬化性樹脂を用いた雪と霜のプレパラート作り…柳   敏…56

 

 透明アクリル板上の雪の結晶に光硬化性樹脂を滴下し,カバーアクリル板を被せた後,10分間の光照射により樹脂を硬化させ,プレパラートを作製した。照射光照度は7000lx以下とし,硬化時の発熱で結晶が融けるのを防いだ。また,本法を応用し,霜のプレパラートを作製した。雪の結晶,および霜の表面構造は細部まで明瞭に保存され,短時間に完成度の高いプレパラートを作製できた。

キーワード 雪の結晶,霜,プレパラート,レプリカ法,光硬化性樹脂

 

北海道支部特集

音の正体と「聞く事」と「聴く事」の違い

−音は耳で聞いているのではなく脳で聴いている−…奥平 知明…60

 

 目が悪くなれば物理的に,レンズの屈折の原理を利用した眼鏡によって視力は回復します。耳が悪く(難聴)なれば物理的に音量を増幅する増幅器を利用した補聴器によって聴力は回復するはずですが,眼鏡のように即,回復はしません。音と言葉と脳の音の認識のシステムを周波数分解という観点から,「聞く事」と「聴く事」の違いを取り上げることにより。補聴器のシステムの周波数分解が完全でないという現状と改善策を報告します。

キーワード 周波数分解,難聴,補聴器

 

北海道支部特集

マジックのような物理実験

−運動方程式の理解のために−…宮台 朝直・岡本 淳平…64

 

 細い紐で錘を吊り,錘の下に太い紐を結んで太い紐を強く引くと(細い紐は切れないで)太い紐が切れる,という実験がある。ここでは,具体的な実験方法を説明し,錘の運動方程式の解から,細い紐に働く力,太い紐が切れる条件,錘の移動距離を求めた。「細い紐が錘を支えられる限り,太い紐を速く引けば太い紐が切れる」と結論された。発展的実験も行った。さらに,細い紐に働く力を測定し,理論式と比較した。両者の一致は満足すべきものであった。

キーワード 演示実験,運動方程式,慣性の法則,単振動

 

北海道支部特集

大学生・高校生・小学生間のリレーティーチングの試み

−千歳科学技術大学における大学Jr.サイエンス事業の報告−…長谷川 誠・石田 宏司…68

 

 平成16年度文部科学省・大学等開放推進事業「大学Jr.サイエンス事業」として,「光のふしぎにふれてみよう」と題する講座を開催した。これは,小学生や高校生に理科・科学への興味・関心を持たせることを目的としたものであるが,その中で,大学生から高校生へ,さらに小学生へのリレーティーチングを試みた。大学生及び高校生に他人に教える機会を提供することで,自らの知識を再確認・再構築する機会を提供できたと考えている。

キーワード 理科実験,理科離れ,ものつくり,光,小学生

 

北海道支部特集

金星の太陽面通過と天文単位の測定…岡崎  隆・山本 美枝…73

 

 地球上の異なる二地点での金星の太陽面通過時間差を測定することによって金星視差を求め,ケプラーの第三法則を援用して太陽視差,地球−太陽間距離を得ることができる。百数十年ぶりにこの現象が起こる時期に,ハレーが提案したとして知られる太陽視差測定法を振り返り,理科教育教材として取り上げるいくつかの視点を検討する。

キーワード 金星の太陽面経過,太陽視差,天文単位

 

提言77

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