物理教育53-2
研究報告
●方位磁石集団による磁区演示と「自発的対称性の破れ」
斎藤 吉彦…103
2次元三角格子方位磁石集団にはお互いが向きを揃える秩序状態がある。カーアクセサリー用の方位磁石1000個で鮮明な磁区が得られる。磁石で外からこの方位磁石集団をかき乱すと,しばらくして秩序状態が現れて落ち着く。これは強磁性体の高温状態から低温状態への相転移(キュリー温度)に対応する。交換相互作用を知らない初学者にも強磁性体のミクロ構造の学習が可能になった。この秩序状態の出現は「自発的対称性の破れ」の実例でもある。素人から専門家まで,生の自然現象で磁区と「自発的対称性の破れ」を楽しむことができる。
●中学校での手を動かして考える光の授業の展開方法
山根津貴子…108
「光」の単元は中学生にとって,初めて出逢う物理分野の学習である。ここでの出逢いは今後の物理の学習に大きな影響を持つことなる。私はできるだけ手を動かし,思考を楽しむことのできる単元として「光」の学習を提供できないかと,様々な試みを行った。
●連続円筒引き上げ法による表面張力の測定
齋藤 嘉夫・島 龍夫・吉本 則之・墻内 千尋…113
液を切らずに表面張力を測定する,連続円筒引き上げ法を開発した。円筒が液に浸っている場合も含めて,液面の上下の範囲で表面張力が求められた。
円筒はステンレス製で,外径24.46mmで厚さ0.27mmであった。円筒は,4規定の硫酸で腐食処理され,親水性にされた。また,円筒の水平調整機構が開発された。
試料液面昇降時の振動を避けるため,2つの10ml注射器が使用された。それらは医療用のパイプで接続され,作動液として水が用いられた。試料の最大昇降距離は26mmで,最小昇降距離は0.001mmであった。円筒と水の重さは電子天秤で測定された。
水温が26.85℃の時の水の表面張力は(72.0±0.1)×10−3N/mで,相対誤差は0.5%であった。
●センサーとコンピュータを利用した中学校理科の授業
高橋 和光・大原ひろみ…119
本報告では,ICT教育として,データロガーを取り上げる。2週にわたって,公立中学校の選択理科の授業で,グループ実験にデータロガーとコンピュータを提供した。あらかじめ決められたセンサー数種から生徒に選択させて,自発的に実験テーマを考えて取り組ませて観察した。4週目にクラス全員で班ごとに結果報告の発表を行った。それらの調査から,授業へ評価は概ね好評であったこと,データロガーの操作は難しいことがなく生徒たちは容易に実験に取りかかれたこと,生徒と教師が頻繁に実験で話し合えたことなどがわかってきた。
キーワード ICT教育,データロガー,センサー,コンピュータ,中学校
●データから考える天動説と地動説〜高校・理科基礎で〜
高木 雅信…125
手に入りやすい資料を使って,自分が生活している地球について考える,という方針で理科基礎「宇宙・地球を探る−天動説と地動説」の授業を行った。その中で,惑星の運動をデータに基づいて考える限り,一番自然なのは周転円を伴う天動説で,その発展した形として地動説は出てくるということを示した。生徒実験ではインターネットで得たデータから地球の周の長さを求め,理科年表のデータから各惑星の軌道半径,公転周期を求めた。
キーワード 地球の大きさ,天動説,地動説,惑星の運動,インターネットを使った実験,理科年表
●学生実験「比熱の測定」の全体像
石川 俊明…130
学生実験の題材としてよく使われる「冷却法による液体の比熱の測定」で,実験の結果に予想外の大きなバラツキが現れる原因を追究してきた。今回はニュートンの冷却の法則を拡張した理論式を作り,すでに得られている冷却実験データと比較した。理論と実験とが比較的適合する一方で,今まで注目してきた予想外のバラツキもあり,そうした全体的な観点で冷却現象を考察した。
キーワード 学生実験,比熱の測定,冷却の理論式
●質量概念の授業実践と概念の形成過程についての考察
綿引 隆文・湊 淳・小澤 哲…133
質量概念の形成のために,一連の授業のプログラムを組んで実践してきた。いくつかの現場で改良しながら実践してきたが,生徒の反応は良好である。2003年度のあるクラスの授業と生徒の反応を中心に追いながら,概念形成の過程と望ましい授業のあり方について考える。
キーワード 概念形成,慣性,質量概念,前概念,臨床教育学
●電場に関する高校生の理解を促す教材の開発
稲森 倫明・宮田 斉・定本 嘉郎…141
高校生が始めて電場を学習する際,点電荷周りの電場と一様な電場を混同する場合がよくある。この混同を解消するために,平行平板電極に一定の電気量を充電した後,極板間距離を変えて極板間にはたらく力を測定する実験教材を開発した。この実験教材により,一様な電場から距離の逆2乗に対応する電場を定量的に測定できた。測定結果は,微小部分に分割した極板上の電荷間にはたらくクーロン力を重ね合わせた数値計算の結果とよく一致した。また,この実験教材を使った教育実践を行ったところ良好な結果が得られた。
キーワード 電場,平行平板コンデンサ,極板間にはたらく力,電気量一定,電子天秤
●パイプ内を上昇する浮きを利用した大気圧教材
小池 守・高見澤一男・高津戸 秀・定本 嘉郎…145
釣りに使用する丸浮きが,水を満たしたアクリルパイプの中を上昇する原因を探る活動を通して,大気圧の存在を理解できる教材を考案した。本教材を用いて,長野県の公立高等学校1年生に,浮きの上昇原因を考える探究学習を実施したところ,実験を通して,大気圧が浮きの上昇する原因であることを理解できた。
キーワード 大気圧,浮き,アクリルパイプ,教材,探究学習
研究短報
●物理実験におけるエクセルのアナログな使い方
室谷 心…147
実験データをグラフ用紙にプロットし,測定点が均等に散らばるように直線をフィットするという作業を,マイクロソフト社の表計算ソフトエクセルを使って行う方法を紹介・提案する。
キーワード 物理実験,表計算ソフト,可視化
《新潟支部特集》
●「青少年のための科学の祭典」を振り返って
丸山 敬…149
記念すべき新潟県での「青少年のための科学の祭典」第1回大会は,1996年2月10日・11日,県立自然科学館で開催されました。いかにして子どもたちの理科離れをくい止めるかを合い言葉に,当時の科学技術庁は全国各地に「青少年のための科学の祭典」を展開していました。暦の上では立春を過ぎたとはいえ,新潟の冬は厳しく,春は名のみの朝でありました。凍てつく路面に注意しながら,会場の自然科学館へ車を走らせました。
スタッフの先生方は9時の開会式に間に合わせようと,あわただしく駆け回り会場は異様な熱気に包まれていました。ふと入り口を見ると,親子連れが既に長蛇の列,寒さを考え予定を早めての入場となりました。結果的には両日併せて来場者約1万2千人,大成功に感激したことがつい昨日のように思い出されます。
あちこちのブースを親の手を引っ張りながら回る子どもたち,スタッフは昼食を摂る時間もないほどの盛況ぶり,子どもたちはほんとに「理科離れ」しているのか。違う,好奇心に満ちた子どもたちの眼,次々に不思議に挑戦し,スタッフに質問する子どもたち,まだまだ捨てたものではないぞ。以来,子どもたちの「高貴なる童心」とスタッフの熱意に支えられて,10年の節目を迎えました。
課題も見えてきました。「なぜ,どうして?」の「高貴なる童心」をいかに「学び」に結びつけるか。好奇心に満ちた眼も学年進行とともにくもり,輝きもいつの間にか失せてしまう。子どもたちは決して「理科離れ」していない。先生方が「理科離れ」しているのではないのか。そこを何とかしなければの思いが募るばかりです。
本県では,平成15年度から新潟大学教育人間科学部附属長岡校園が文部科学省の研究開発校に指定され,科学教育に重点をおいた「創造的な知性を培う」幼稚園・小学校・中学校の連携教育課程の研究に取り組んでいます。科学に関わる教科・領域等の新設や時間増を行うなど科学教育に重点を置いた教育課程の中で,子どもたちが感性をはたらかせながら学習対象に迫っていく姿,問題解決のための科学的なものの見方・考え方を身につけていく姿が紹介されています。今後,これらの研究成果が広く先生方に共有され理科教育の活性化の一助になってくれればと期待しています。
今年は「世界物理年」,アルバート・アインシュタイン博士が現代物理学のジャンプ台となりました画期的な論文,光電効果の理論,ブラウン運動の理論,特殊相対性理論という3つの革新的な論文を次々と発表し,この年は物理学にとって「奇跡の年」と呼ばれました。それから100年,大きな節目の年,改めて科学教育のあり方が問われています。ここに支部の取り組みの一端を紹介し,ご指導をいただければ幸甚に存じます。
●第1回青少年のための科学の祭典新潟大会
麩沢 祐一…150
●科学の祭典を通して感じた情熱と今後のテーマ
鈴木 公夫…152
My attempt to develop a more effective physics class : I recognized the
importance of experiments when I joined the science festival, therefore I
adopted video recorded an experiment in physics, which is considered between a
normal experiment and a lecture.
キーワード デジタルカメラ,デジタルビデオカメラ,デジタルムービーカメラ,動画
●新潟支部ブースの一つの「音」
五十嵐伊佐雄・坂井 章…156
平成12年12月に上越市リージョンプラザで開催された祭典で,物理教育学会新潟支部ブースでは「音」を子供たちから楽しんでもらった。
キーワード 青少年のための科学の祭典,新潟大会,新潟支部ブース,音のフレネルレンズ
●新潟県における『青少年のための科学の祭典』を振り返って
東條 賢二…160
『青少年のための科学の祭典』について,新潟県では第1回が1995年に開かれてから毎年開催され,昨年で10回目になりました。その中で,私は何かの縁があってか3回ほど展示ブースの場を提供させて頂きました。その中の初回で担当しました『宙に浮くボール』についての苦心談,参加者の反応,感想などを書いてみたいと思います。
●’98「青少年のための科学の祭典」新潟大会に参加して
野間 伸二…162
1998年12月 26日・27日の両日, 新潟伊勢丹7階で新潟県における「青少年のための科学の祭典第4回大会」が開催されました。 この祭典に「愉快,痛快
放物運動」と 題して慣性打ち上げ台車と水滴投射器の2種類を演示・実験させていただきました。 この装置を作製する 動機から公開実験 までの流れを思い出しながらまとめてみました。
キーワード 慣性打ち上げ台車,水滴投射器
,慣性の法則,放物運動
●新潟県「青少年のための科学の祭典」の運営形態について(私見)
遠藤 浩…164
この数年の新潟県における「青少年のための科学の祭典」は新潟県産業労働部産業振興課が事務局となって行われている。つまり,実行委員長は新潟県知事であり,産業振興課課長が事務局長である。事務局となった担当者は,会場の確保から当日の弁当の手配まで行っている。また,祭典の運営費用の半分が県の予算ということになっている。
漏れ聞くところによるとこのような運営形態をとっているのは珍しいとのことなので,私見を交えながら紹介させていただく。
●新潟での「青少年のための科学の祭典」10周年を迎えて
長潟 陽子…167
連 載
●ノーベル賞受賞者たち(8)アインシュタイン
福島 肇…169
追 悼
● 矢野淳滋先生と実験重視の物理教育
村尾 美明…174
委員会報告
●2005年度センター試験 物理および総合理科問題に対する意見
入試検討委員会…175
大学入学試験における大学入試センター試験1)の果たす役割は,その利用形態の多様化と共に年々大きくなっている。また,その結果として,高校での授業への影響力も増していると考えられる。
物理㈵Bについては,アンケート調査を実施し1),その結果をもとに入試検討委員会で検討を行い2),物理㈵Aについては,近畿支部,北海道支部を中心に検討を行った3)。また,昨年度より物理と同じ試験時間に行われ,その受験者が飛躍的に増加している総合理科についても,新潟支部を中心に検討を行った4)。
なお,本年度大学入試センター試験に関するこの検討結果については,例年同様,「意見書」として,3月2日に独立行政法人大学入試センターへ提出した。以下の報告は,提出した「意見書」をもとに,一部修正加筆したものである。
(報告まとめ:井上 賢/駒場東邦中高校,委員会幹事)
Information…184