物理教育53-3

研究報告

●高温超伝導体の磁気特性と演示実験

増田 健二・鈴木 三男…195

 高温超伝導体の磁気特性の応用に際しては,磁束のピン止めに起因する反撥力および抵抗力についての知見が必要とされる。本研究では,高温超伝導体の磁気特性として,超伝導体が外部磁場を打ち消す力,及び超伝導体上で磁石を動かした際に感じる抵抗力を定量的に測定する。さらに,超伝導体が磁石(発泡スチロール地球儀)を吊り下げる磁束のピン止め効果の実験,ステッピングモータ動作原理を用いたリニアモーターの実験などの演示実験を紹介する。

キーワード 高温超伝導体,磁気浮上,磁束のピン止め,リニアモーター

 

●空気ロケットの教材化とその授業実践(2)

寺田 光宏・西川  純…201

 先に,筆者らは空気圧だけで飛ぶ空気ロケットを利用した教材の開発とその授業実践を報告した1)。その中で,空気ロケットの特徴ある実験の方法と生徒が求めた実験結果から教具としての可能性を明らかにした。また,空気ロケットを利用した授業を実施後,アンケートと自由記述の感想から教材としての有効性を示した。本論では,これらを発展させ空気ロケットの水平飛距離を制御する方法を生徒達と検討し,制御が初速度(ポンピング回数)により有効であることを明らかにした。また,本教材のようなものづくりを通した教材が学習意欲をどのようにして高めるかを明らかにし,理解度や創造性について検討した。

 

●高等学校物理における「素粒子」の取り扱いに関する変遷

田中 賢二・石綿  元…207

 高等学校学習指導要領において,「素粒子」が登場したのは,平成元年(1989)改訂の要領である。科目<物理U>で,学習内容の最終テーマ(課題研究を除く)として導入されている。その後の平成11年(1999)改訂でも引き続き導入されており,高等学校物理における一つの学習内容として定着を見せている。「素粒子」の取り扱いに関する変遷を2回の指導要領改訂に対応した教科書でみると,新教科書は旧教科書に比べて言及されている「素粒子」が拡充し,未確認や研究中との言及が増加し,問題数が増えていることなどが判る。

キーワード 学習指導要領,教科書,物理㈼,素粒子,変遷

 

●ワンチップマイコンを用いた台車搭載型速度計の開発とこれを用いた「運動量」学習の導入

関口 隆司・ 湊   淳・小澤  哲…213

 運動量保存は,力学的エネルギー保存と並んで,自然を探求する上で極めて重要な役割を果たす法則である。大学入試問題で頻出されるのも,その重要性からであろう。そこで,運動量の学習の導入の段階で,直衝突において運動量が保存することを演示実験で示し,運動量の重要性を生徒に納得させる授業を考えた。授業は,問題提起と実験を組み合わせて展開するものとし,また,実験が効率よく行え,訴求力のあるものとなるよう,台車搭載型の速度計をワンチップマイコンを用いて開発した。

キーワード 運動量,直衝突,演示実験,速度計,ワンチップマイコン

 

●研究室で製作した教材を活用した教員養成系の物理学実験

             鈴木 康文・深澤 優子・細川 太郎・藤本 豊大・若月  暁…219

 研究室で作製した力学教材と熱力学教材を大阪教育大学・理科専攻の学生を対象とした物理学実験で活用した。力学教材はパチンコ玉の滑走台による力学的エネルギーの保存に関する実験器であり,熱力学教材は水柱やコンピュータセンサーを活用したボイル−シャルルの法則の実験器である。これらの教材は,幅の広い実験を行うことが可能であるという特質を持つ。活用した結果,物理を元々好きだった学生には,科学的探究心を育てるために意義ある教材である。しかし,物理への興味や関心の薄い学生に対しては,用い方に工夫しない限り,興味をわかせるような教材になっていないことが分かった。これを受けて用い方の工夫に対する考察を行った。

 

●高校物理教科書に見られる質量概念の取り扱いと問題点

綿引 隆文・湊   淳・小澤  哲…224

 質量が慣性の大小を表すということを,旧教育課程時代の物理㈵Bと新教育課程の物理㈵の教科書が,どのように取り扱っているかを調べた。全体的に,物理Tになって改善傾向が見られるが,依然,問題点も残っている。その実態を報告する。

キイワード 教科書,慣性の大小,質量概念,調査,物理TB,物理㈵   

 

研究短報

●「超光速」を理解する −光の位相速度と群速度−

新田 英雄…229

 

企画

SSHの実践例 〜栃木県立宇都宮高等学校〜

高木 伸一 …231

 平成14年度に文部科学省で始まった「理科大好きぷらん」の一つとしてスタートしたスーパーサイエンスハイスクール事業(以下SSH)であるが,本校は平成15年度より3年間の指定を受けた。昨年度までの本校の取り組みを報告する。

キーワード SSH,万有引力定数測定

 

談話室

●感想:マレーシア政府派遣対日留学生の教育

唐木  宏…235

 

●「科学なんでも相談」の経験

大井みさほ・新田 英雄…237

 

《東北支部特集》

●特集にあたって

井口 泰孝…239

 日本の初等,中等,高等教育における学力向上,中でも理数系の学力向上が,日本の科学技術立国,国際競争力の回復の掛け声の下,またまた,叫ばれてきた。子供時代の知識力と共に人間力向上が重要との考えから,ゆとり教育の必要性が議論され,小,中,高の教育に取り入れられてきた。ゆとり教育は重要であると筆者は認識しているが,社会,教育現場,教育指導者の受け止め方,実行の仕方がそれぞれ異なり,あたかもゆとり教育が子供,若者の学力低下をもたらしたと短絡的に捉えられている。同様,大学の教養部廃止も,2種類の教授,貧弱な予算についての真剣な議論がないまま,大部分の国立大学で実行され,頭でっかちの教育組織体系づくりに文部省も各大学も乗ってしまった。

 確かに働きすぎを防ぐために,最も国民の祭日が多い国になってしまっている現状では,学校でカリキュラムを組む場合,時間数が極端に足りないことも事実である。でもこれは,学習指導要領と従来のカリキュラム編成から抜本的に抜け出さない限り,解決できない。

 義務教育世界一のフィンランドでは,国はカリキュラムの大綱を決め,学校の裁量を大きくしたことが成功の秘訣であると述べている。日本も制度的には近いといわれているが,現実は相変わらず,ありとあらゆることが規制されている。なのに,自己評価,外部評価が声高に言われ,さらに,社会,父母からの批判も多岐にわたり,現場は苦悩している。

 でも,愚痴や批判ばかりでは何も進まない。政治を含む中央に,現状の改革,改善を提言することは重要であるが,現場が主体的により良い教育を目指す必要がある。

 物理教育学会東北支部では,少数の会員ではあるが,研究会,発表会,講演会,見学会,シンポジウム,パネルディスカッション等の活動を活発に行い,特に小,中,高,大学教員間の意見交換はユニークで有益である。本特集記事はその一部を紹介しているが,会員の皆様の参考に少しでもなれば幸いである。

 

●教員研修と理科を中心とした校内研修への試案

文屋  優…240

 物理離れ,職につかない若者が増加し,年金制度の維持が困難という話題が出る。あい変わらず学習から躾・部活動・職業観の育成にいたるまで学校が背負い込んで,教員の多忙化に拍車をかけている。この中で教員をどう育てるか,研修は教育委員会で行えばよいのだろうか。再研修を求められる教員,不審者が学校の周りに居る現実,生徒達がストレスを抱きやすい状況で,校内から若い教員を育ててゆく方策を考えてみた。

キーワード 学校の不祥事,教育系大学の課題,求められる心理学・社会学,教授技術の伝授,会話のある職場環境

 

●物理実験セラピーの研究

八木 一正・三上 良太・渡邊 瑛子・久坂 哲也・中島 志円…245

 面白い実験には“つい”手が出てしまう。子どもの積極性を引き出す見えない糸がそこには有りそうである。現在,学校は学習意欲の低下,不登校など様々な教育問題を抱えているが,物理という科目はこれらに何ができるだろうか。筆者らは物理における「実験」が,実は人間の心を癒し人間再生のエネルギーを与える役割も兼ね備えているという考えのもと「セラピー」として有用性があるか否かを研究している。ここでは,実際に子ども達に接している幼稚園教諭と将来小学校の教師を目指す大学生に様々な物理実験を紹介しアンケート調査を行った。その結果と考察を発表する。結論として,物理実験は心を癒す「セラピー」として有効であることが確認された。ただし,ここで扱うのは全て物理実験であるが中学校以前においては広く理科実験と置き換えてもよい。

キーワード 物理実験,セラピー,学校問題,心の癒し,理科教育

 

●「NSTA」出展と米国高校出前授業への挑戦

久坂 哲也・平山 訓之・三上 良太・稲波 悠季・菅原 身奈・八木 一平・渡邊 瑛子・中島 志円・八木 一正…249

 研究成果を外国にも発表するという挑戦をさせることは,東京すら滅多に出たことのない学生に,少しでも世界の理科教育の実態を分らせ自信を持たせる上で重要である。本研究室では,昨年3月に米国アトランタで開催されたNSTA(National Science Teachers Association)に元気な学生を連れて参加し,本研究室で開発した物理実験装置等を出展してきた。さらに近隣の高校で出前授業も行った。その時の出展や実践の様子を,感想などを交えながら紹介する。

キーワード NSTA,国際学会,実験紹介,流体力学実験,物理教育

 

●高校課題研究支援のための長期連携実験教室とその評価

−平成16年度文部科学省サイエンス・パートナーシップ・プログラム事業

宮城教育大学—宮城県仙台向山高等学校「教育連携講座」の特色と成果−

千葉 芳明・猿渡 英之・田幡 憲一・川村 寿郎・棟方 有宗・佐々木 洋…253

 

学会報告

●「第14回今春の物理入試問題についての懇談会」(東京)報告

入試検討委員会(入試懇談会担当WG)・関東地区連絡会(準備会257

 東京における「今春の物理入試問題についての懇談会」(通称「入試懇談会」)は,今回が第14回である。今回は,「2006年問題」が,いよいよ来年度に迫り,逼迫した課題として,高校・大学の双方の共通した関心事であり,これに関わる議論や情報交換も活発に行われた。また,その背景にある「新課程」をめぐる課題として,高校・大学連携の問題や,初等・中等教育全体のカリキュラム問題にも話題は展開した。各大学の問題に関連する議論においては,各大学ともに,受験者の学力的な現状認識に基づき,入試問題の題材や難易度等をより適正化しようと努力していることをうかがい知ることができた。昨年度同様,中等教育(及びそれに接続する大学初年級)における物理のカリキュラムの問題を軸としつつ,大学・高校間の相互理解と提携が,ますます重要な課題となっていることが,実感させられた。

 

IUPAP2004年物理教育委員会議(ICPE)議事録

兵頭 俊夫…261

 表記会議は,毎年,物理教育国際会議の前後に行われるが,2004年は,2004年7月5-8日にダーバン(南アフリカ)で開催されたICPE/SAIP物理教育国際会議どのような物理を教えるべきかの直後の2004年7月9日に行われた。以下は表記会議の議事録の抄訳である。

 

●物理チャレンジ2005実施報告264

 世界物理年企画として,日本物理教育学会,日本物理学会,応用物理学会,岡山県・光量子科学研究所共催による,主として高校生を対象(20歳以下の高等教育機関未進学者,年齢下限なし)とした,日本初の物理コンテスト「物理チャレンジ2005」が,この8月12日〜15日,岡山県の教育研修施設「岡山閑谷(しずたに)学校」で,参加者100名を集めて行われた。

 

Information…280