授業のアンケートを毎回とりました |
埼玉県立本庄高校 西尾信一 |
今年度(2003年度)、新しい学校に異動したのを契機に、新たに始めたことがいくつかある。その一つに、毎回の授業で「今日の授業の記録」というアンケートを生徒に書いてもらっていることがある。 |
生徒の学習意欲の低かった前任校では、生徒を授業に参加させる手段の一つとして毎回の授業のたびにノートを集めることをしていた。そして、その日の板書の写しの最後に『まとめ』の欄をつくり、そこに「授業の要点」「わかったこと」「わからなかったこと」「質問」「意見」「感想」などを書くことを要求していた。生徒はあまり書いてくれなかったが、一定程度それによって生徒の声を拾うことができていた。 |
現任校では多くの生徒はノート提出がなくてもノートを書くので、このやり方の代わりに考えたのが、このアンケート提出なのである。 |
それは簡単な択一式の設問と自由記述を組み合わせたもので、大きさは当初A5、現在はB6サイズの1枚。まず、興味・関心について「おもしろい」「ふつう」「つまらない」、難易度について「やさしい」「ふつう」「むずかしい」、理解度について「わかりやすい」「ふつう」「わかりにくい」の3段階で○をつけてもらう。続いて、今日の授業でわかったことを自分の言葉でまとめさせ、最後に質問や意見を書く形式である。 |
よいまとめは次の授業の冒頭に紹介して褒めたり、質問事項もなるべくそこで簡単にコメントするようにしている。 |
生徒の関心や理解度がわかり、プリントの誤りを発見してくれたり、次の授業の組み立てに参考になる情報が得られて、けっこう有意義である。 |
ただ、毎回の作業で生徒も面倒なのだろうが、おざなりに書く生徒が増えて形骸化しつつあるのが少し難点である。これはアンケートを書く時間を十分に保障していない私の授業運営にも原因があるようだ。授業終了のチャイムが鳴ってから書いてもらうこともしばしばあるのだから。このような「その日の授業のまとめを書かせる実践」をしているサークルの仲間は、授業の最後に必ず書く時間を作っているとのことで、そういった配慮が必要なのだろう。 |
いずれにしても、「生徒の声を拾うこと」と「新しい試みにチャレンジすること」は、マンネリに陥らず意欲を保つために有効であると思う。 |
「保存」の意味がわからない |
埼玉県立本庄高校 西尾信一 |
こちらが授業で話していることが生徒にうまく伝わらないことが意外にある。その原因は、生徒の数学力不足を教師が把握できていないことも多いが、日本語の問題にある場合もある。 |
私は、よく生徒に「表現が難しい」と言われる。プリントの文章や口頭の説明が、つい難しい語句を使ったり、硬い表現になってしまっているのだろう。意識はするものの、なかなか直らない。他の教師の授業参観を積極的に行って、学ぶ必要がありそうだ。 |
ところで、この日本語に関わることで、最近生徒から見過ごしていた盲点をつかれて驚いたことがある。それは「保存」という用語である。われわれ物理教師は、運動量保存やエネルギー保存という表現を当たり前のように使う。でも、ある生徒に言わせると、授業を聞いていてこの「保存」の意味がわからなかったという。つまり、ふだん「保存」というと「使わないでとっておく」という意味なので、奇異な感じがするというのだ。たしかにそう言われてみれば、日常生活で「保存」というと、食品などを腐ったりしないように配慮して「とっておく」という意味だ。そのイメージそのままで「運動量保存の法則」などと言われてもピンとこないのは、なるほど無理はない。 |
これを聞いてからは、物理で「保存」というときは「合計量が変わらないで一定」という意味なんだ、ということを説明するようにした。しかし、これまで20年以上教師をやっていながら、このことに気づかなかったというのは、いかに生徒の声を拾えていなかったかだ。反省しきりである。 |
みなさんは、こんな経験はないだろうか。 |
ベクトル合成作図法の発見 |
神奈川県立横浜桜陽高校 |
通常,生徒実験プリントには,実験の目的,準備,方法,結果,考察等の項目立てがあり,方法の欄には実験手順が細かい注意点と共に箇条書きされている.結果の欄には表やグラフ用紙が印刷してあり,生徒はそこに測定データを記入し,グラフを作成する.考察欄の各問いに答え,最後に感想を書けば,実験レポートが完成する. |
本校3年選択物理で実施している生徒実験では,そうした実験プリントを配布しないことが何回かある.PSSC物理以降よく知られている,二次元衝突の実験の時間がちょうどそうであった.その代わりに,物理実験ハンドブック(1)の該当箇所のコピーや,実験セット付属のパンフレット(2)など,必要な資料を与え,実験の概要を簡単に説明しておく.90分授業なので,時間内に実験を終え,レポート作成に着手することができる.レポート作成の途中でデータの不備に気づき,その場でもう一度実験をやり直す生徒がいる.実験を開始したとたん,教科書の二次元衝突のページを開き,読み始める生徒もいる.もちろん既習の単元である. |
さて,そうした中でちょっとした発見があった.PSSC二次元衝突の実験では,床上のカーボン紙上に落下した球の位置から,2球の衝突直後の運動量ベクトルを求め,そのベクトル合成が衝突前の球の運動量ベクトルに等しいことを示す手順が必要になる.その箇所に来たとき,何人かの生徒は自分たちがベクトル合成の作図法を知らなかったことに初めて気がついた.もちろん,ベクトル合成は平行四辺形の方法でできることを知っているし,定期試験で出題されるベクトル合成の作図問題もできる.しかし,カーボン紙の跡がついたトレーシングペーパーを前に,彼らは考え込んでしまった.配布した資料には,平行四辺形の描き方の説明はない.そこで,1m定規と三角定規を与え,あとは放っておいた.皆で相談しながら,ああでもない,こうでもない,とやっているうちに作図の仕方に気づいたようだ.歓声を上げて喜んでいた. |
まったくこちらの予想もしなかった展開であったが,間違いなく,彼らは運動量保存の法則についての理解を一歩進めたのであった. |
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引用文献 |
(1)藤井 清,中込八郎:物理実験ハンドブック(講談社,昭和52年) |
(2) 「2次元の衝突」取扱説明書:島津理化機械 |